3.3. 大型の生体分子
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4種のカテゴリーの大型の生体分子を説明する
炭水化物(糖質)
例
炭水化物は動物では食餌から摂取するエネルギーの主要なものであり、植物では植物体の大半をつくる構成物質としての役割
単糖
それ以上小さく分解できない単純な糖
これらの単純な糖はともにハチミツに入っている
同じ分子式だが異なる構造をとるもの
グルコースもフルクトースも分子式は$ \mathrm{C_6H_{12}O_6}だが、その原子配置は異なっている 分子の形は非常に重要なので、原子の配置の一見わずかな違いでも異性体に異なる性質を与える
官能基の配置が異なるフルクトースはグルコースよりもかなり甘く感じられる 糖の炭素骨格を線状に描くのは便利
しかし、多くの単糖は水の中では分子内で結合して環状構造を作る
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糖の分子の絵を線状に描くのは便利
ガソリンを消費する自動車のエンジンと似て、ヒトの細胞はグルコース分子を分解し、そこに蓄えられたエネルギーを取り出し、二酸化炭素を「排気ガス」として放出する
グルコースは細胞エネルギーに素早く変換されるので、病気やケガの患者の血液にグルコース(デキストロースともいう)の水溶液をよく注射する このグルコースは体の回復に必要な即効性のエネルギーを組織に提供する
その他にも、糖は別の有機化合物を合成するときの原材料として利用できる炭素骨格を細胞に提供する
二糖
2個の単糖が脱水反応で結合してできたもの
発芽する種子によく見られる
植物の樹液の主な炭水化物であり、植物体全体に栄養分として送り届けられている
スクロースは米国では加工食品の甘味料としてはほとんどつかわれていない
本来のコーンシロップ中のグルコースを甘味の強いフルクトースに変換したもの
多糖
単糖が長い鎖によってつながっているポリマー
多数のグルコースモノマーがつながってできている
植物細胞はデンプン粒として糖を貯蔵し、エネルギーや別の物質を合成するときの原材料として必要になったとき分解して利用する
ヒトや多くの動物の消化系はデンプンのグルコース間の結合を加水分解して切断できるので、デンプンを利用することができる グリコーゲンとデンプンの構造はよく似ている
グリコーゲンはもっと激しく分岐している
ヒトのグリコーゲンのほとんどは肝臓と筋肉の細胞中に顆粒として蓄えられている
エネルギーが必要なとき、分解されてグルコースが作られる
食物のデンプンは体内でグリコーゲンに変換され、次の日の運動時に利用される
多糖類は栄養として重要な役割を果たすだけでなく、構造成分として働く多糖もある
地球上で最も多量に存在する有機化合物
植物細胞を含むしっかりとした壁の繊維状組織を形成し、木材の主要成分となっている
セルロースはグルコースのポリマーという点ではデンプンやグリコーゲンと同じであるが、グルコースのモノマーは異なる配向で結合している
デンプンやグリコーゲンとことなるセルロースのグルコース間の結合は,多くの動物は切ることはできない
そのため、植物性の食品に含まれるセルロースはヒトの消化管内をそのまま通過する
セルロース繊維は全く消化されないので栄養にはならないが、我々の消化システムを健康に保つことに役立っている
グルコースやフルクトースのような単糖やスクロースやラクトースのような二糖は水によく溶けるので、甘い溶液をつくることができる
一方、セルロースは水に不溶
バスタオルが水を拭き取ってくれるのはセルロースのこの親水性の性質による
脂質
水と混じり合わない性質の有機化合物
一種の脂質である食用油は酢を含んだ水の層と分離する
炭水化物やタンパク質、核酸とは異なり、脂質は高分子でもポリマーでもない
たとえば、すべての多糖類は糖のモノマーからできているが、脂質の構造は違う
脂質はたがいによく似た「構成単位」からつくられているのではない
脂肪
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1kgの脂肪は1kgの炭水化物の2倍以上のエネルギーをもっちえる
この高いエネルギー効率の悪い面は、余分な脂肪を「燃やす」ことで減量することは難しいということ
適量の体脂肪はエネルギーの予備として自然であり、健康的であることを理解することも重要
脂肪を蓄えたり消費したりすると、脂肪細胞とよばれる特殊な貯蔵細胞が伸縮して、この長期保存型物質を蓄えている この「体脂肪」の脂肪組織は単なるエネルギー貯蔵のためだけでなくクッションとして重要な臓器を守り、外が寒くても体温を保つ断熱効果ももっている
図3.11bで示す脂質の一番下の脂肪酸は、二重結合のところで曲がっていることに注目
他の2個の脂肪酸の炭化水素鎖には二重結合がない
もし、1個もしくはそれ以上の不飽和脂肪酸が含まれていれば、不飽和脂肪という ラードやバターのような動物性脂肪のほとんどは飽和脂肪酸の割合が比較的高い 飽和脂肪酸のまっすぐな形のおかげで分子が積み重ねやすくなり、室温で固化する傾向にある
不飽和脂肪酸は分子の形が曲がっているため、固化しにくい
室温ではほとんどは液体
おもに不飽和になっている油
植物性油は飽和脂肪が少ない傾向があるが、熱帯性植物の油は例外
チョコレートの主成分であるココアバターは飽和脂肪と不飽和脂肪が混ざっており、その融点はヒトの体温に近い
そのため、チョコレートは室温では固体であるが、口の中では溶ける
食品メーカーは植物性油を使いたいが、製品は固体である必要があることが時々ある
不飽和脂肪酸に水素を加えて飽和脂肪に変換する
金属触媒を用いて水素添加することが、副反応としてトランス脂肪を生じる理由
2006年以降、FDAは食品の成分表にトランス脂肪についても記載するように要求している
飽和脂肪とトランス脂肪は一般的に避けるべきものであるが、すべての脂肪が健康によくないというわけではない
脂肪にも体内で重要な働きをしているものがあり、健康的な食事に必須なものもある
ステロイド
ステロイドは疎水性なので脂質に分類されるが、脂肪とは構造も機能も非常に異なっている すべてのステロイドは炭素骨格が4個の環構造が融合した形をしている
異なるステロイドはこのコア環構造に付随する官能基の種類が違っており、この違いが機能に関わっている
心臓血管の疾病への関与で悪名が高いが、コレステロールはヒトの身体において必須な分子 男性ホルモンのテストステロンの化学合成品
アナボリックステロイドはテストステロンと構造が似ており、その作用もまた似ている
当時のドーピング検査をクリアできるようにつくられていた化学合成ステロイド(デザイナーステロイド)で「クリアー」と関係者は呼んでいた アナボリックステロイドを使用すると、厳しいトレーニングをした者だけが得られるものを越える肉体をすばやく獲得することができる
ステロイドの濫用は肉体的にも精神的にも深刻な問題を引き起こす
これらの症状はアナボリックステロイドがしばしば性ホルモンの正常な働きを減少させるために起きる
タンパク質
生命の分子の中で最も精巧なもの
ヒの体には独自の3次元構造をとり特異な機能を持つ数万種の異なるタンパク質が含まれている
タンパク質は生命に必要な仕事のほとんどを実行する
酵素は反応プロセスにおいて自身は変化せずに特定の化学反応の速度を上昇させる
タンパク質のモノマーはアミノ酸である
すべてのタンパク質は20種類のアミノ酸という共通セットから作られる高分子 各アミノ酸の中央の炭素は4つの共有結合で相手と結合している
このうちの3つは20種類のすべてに共通
アミノ酸の可変部位である側鎖はアミノ酸の中央の炭素の4番目の結合相手 各アミノ酸には固有の側鎖があり、特定の化学的性質を与えている
ポリマーとしてのタンパク質
細胞はアミノ酸のモノマーを「脱水反応」でつなぐ
タンパク質とは1本もしくはそれ以上のポリペプチドからなるポリマーである
特異的なアミノ酸配列
ヒトの体には数万種類の異なるタンパク質がある
わずか20種類のアミノ酸からどうしてこんな膨大な種類のタンパク質をつくることが可能であろうか
配列の組み合わせ
典型的なタンパク質では少なくとも100個以上のアミノ酸がつながっている
各タンパク質はアミノ酸が線状につながった固有の配列をもっている
一次構造にわずかに変更を加えると、タンパク質の機能に影響を与えることがある
酸素を運搬する血液のタンパク質であるヘモグロビンでは特定の位置のアミノ酸を別のものに置換すると鎌状赤血球症という遺伝病を引き起こす 6番目のアミノ酸のグルタミン酸をバリンに置換する遺伝的変化で、結晶化しやすく、結果として細胞の形を鎌状に変える タンパク質の形
ポリペプチドの鎖とタンパク質は全く同じとはいえない
毛糸の長い糸とセーターの関係
機能を持ったタンパク質は、1つもしくはそれ以上のポリペプチドが正しくゆがみ、折りたたまれることで固有の形をとっている
もし、タンパク質の全体構造を解剖するとすれば、その構造は少なくとも3つのレベルに分けることができる
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ポリペプチドの一部は二次構造と呼ばれる局所的な構造をつくる
二次構造はポリペプチドの主鎖に沿った規則的な水素結合によって支えられている
タンパク質全体の3次元構造のこと
ポリペプチド鎖の異なる領域間の化学結合によって支えられている
2本以上のポリペプチドからタンパク質がつくられるときは4番目のレベルが存在する
細胞がポリペプチドを合成するとき、通常その鎖は機能を持つタンパク質の形に自発的に折りたたまれる
細胞内でタンパク質が特定の機能を果たすことができるのは、その3次元の分子の形による
殆どの場合、タンパク質の機能は、別の分子を認識し結合できる能力に依存している
タンパク質では「機能は形によって決まる」
つまり、タンパク質がすることはその形の結果である
何がタンパク質の形を決めるか
タンパク質の形はまわりの環境に応じて変わりやすい
温度やpH、また別の環境因子が望ましくない方へ変化するとき、タンパク質は解きほぐされ、正常な形を失う 卵を加熱すると、卵白タンパク質の変性によって卵白は透明から白濁へと変化する
変性したタンパク質は水に不溶性となり、白い固体に変わる 極端な高熱が危険である理由の1つは、体のタンパク質の中に40℃を超えると変性するものがあることによる
タンパク質の一次構造、つまりアミノ酸配列は、それが機能する形に折りたたまれるように決めている
核種のタンパク質は各々の固有の一次構造、つまり固有の形をもち、それによって特定の細胞の仕事をする
もし正しく折りたたまれないとどうなるか
タンパク質の折り畳みの間違いは多くの病気とも関係している
しかし、タンパク質の一次構造を決定しているのは何か
タンパク質は1本もしくはそれ以上のポリペプチド鎖からできている
それぞれの鎖のアミノ酸配列は遺伝子によって決定されている そしてタンパク質と遺伝子の関係は生体高分子である核酸につながっている 核酸
タンパク質合成の指令にかかわる高分子
実際には2種類の核酸
ヒトなどの生物が親から受け継ぐ遺伝物質はDNAの高分子
DNAは細胞の中で1本もしくはそれ以上の染色体という非常に長い繊維として存在する DNAの特定の領域で、ポリペプチドのアミノ酸配列をプログラムしている
化学の暗号で書かれているので「核酸の言語」から「タンパク質の言語」への翻訳が必要
ヌクレオチドは3つの部分に分かれる
この糖には負電荷をもったリン酸基、つまりリン原子に酸素原子が結合したもの($ \mathrm{PO_4^-})が結合している 同じ糖には窒素を含む環が1個もしくは2個ついている塩基も結合している これは溶液から水素イオン(H+)を受け取る傾向があり、単に塩基ともいうことが多い この糖とリン酸はすべてのヌクレオチドにおいて全く同じであり、異なるのは塩基だけ つまり、すべての遺伝情報は4文字のアルファベットで書かれている
脱水反応によってヌクレオチドモノマーがつながりポリヌクレオチドとよばれる長い鎖がつくられる ヌクレオチドの結合は1つのヌクレオチドの糖と隣のヌクレオチドのリン酸との間の共有結合による
4種の塩基の異なる組み合わせによって、可能なポリヌクレオチドの配列の種類は莫大なものになる
1つの長いポリヌクレオチドは数百から数千ヌクレオチドからなる遺伝子を多数含んでいるかもしれない
それぞれの遺伝子の情報は、ヌクレオチドの固有の配列という形で蓄えられている
この配列は、アミノ酸から特定のポリペプチドをつくりあげるための指令をもたらす暗号
らせんの中心部分では、DNA鎖に沿って塩基が他方のDNA鎖の塩基と水素結合を形成している
この結合は水の分子間をつなぐ水素結合とおなじく1つ1つは弱いものであるが、集合するとジッパーのように2本の鎖をつなぎ合わせて非常に安定な二重らせんをつくることができる
特定の官能基が各塩基から伸びているので、DNA鎖の二重らせんをつくる塩基の対形成は特異的である
つまりAはTとだけ、GはCとだけ対を形成する
この特異的な塩基対の形成はDNAが遺伝する分子として働く基礎
RNAとDNAの違い
リボ核酸が意味するように、糖はデオキシリボースではなくリボース
RNAではチミン塩基の代わりに、チミンに似ているが全く別の塩基であるウラシル(U)を持っている ウラシルとリボースを除けばRNAのポリヌクレオチドはDNAのポリヌクレオチドと同一といってもよい
しかし、RNAは1本鎖として存在し、DNAは2本鎖